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これは日記じゃない!先生が血相を変えて怒ってきた

コラム コラム-エッセイ

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1枚の写真を手渡された。

「この写真を見て、何か書いてください」

たしかそんなことを言われたのを記憶している。 写真は公園にある水道の蛇口がうつし出されていた。

いったいこの写真を見て何を書けばいいのだろう……。与えられた課題をこなすのが得意ではない。

表面は涼しい顔をしていたのだけれど、頭の中は嵐が吹き荒れていた。

あれは小学校4年生の時にクラスでグループ日記なるものを書かされたのに似ている感覚なのかもしれない。

生徒たちが順番に日記を書いていき自分の書く順番になったのだけれど、いざグループ日記を渡されると何を書いていいのかお手上げになってしまった。

日記なのだから今日あった出来事を書けばよいのだけれど困ってしまった。その日に限って友だちと遊びに行くとか、家族でどこかに出かけるとか日記に書けそうな出来事がなかったのだ。

ただぼんやり家にいただけだった。日記帳に“今日は1日中家にいただけだった。おしまい。”と1行書いて日記を終わらせてしまいたい衝動にかられた。

グループ日記をペラペラとめくると、みんな結構書いている。さすがに1行だけの日記はまずいんじゃないかと考え直した。

 追いつめられている時の状態って変な感じだ。そんな時に限って今夜の晩ご飯は何を食べようかなんて考えてしまう。

すでに夕食をとっていたので、さすがに食べ物のことは浮かばなかったのだけれど日記に何を書けばいいのか分からなかった。

とりあえずランドセルに明日授業をする教科書を入れながらどうしようか考えることにした。

ランドセルに算数の教科書を入れようとした時だった。

「しまった! 算数の宿題をするのを忘れた」

算数の宿題をやっていないことに気づいた。日記を書かなくてはいけないし算数の宿題をしなければいけない。

期限は明日までだった。 当時の自分は、その瞬間に嫌な汗が流れ出して途方にくれた。

タイムマシーンで過去に戻ってもう1度やり直したい。 そうすればこんな事態にならなかったのにと後悔した。

自分は洗面場に向かい、水道の蛇口を思いっきりひねって蛇口から流れ出る水をジャブジャブと顔につけた。

季節は夏だったということもあり、はじめは生温かい水が流れていたのだけれど、しだいにひんやりとした温度の水に変わっていた。

「あっ! こうすれば2つとも一気にできてしまうじゃん!」

あることを閃いて洗面所の前にある鏡に向かって微笑んだ。タオルで顔をきちんと拭いた後、勉強机に座り算数の宿題とグループ日記帳を開いた。

算数の宿題の問題を1問解いて、その後に日記帳に書きはじめた。

    もうねようかなと思ったら算数の宿題をやっていなかったので、がんばって算数の宿題をすることにしました。1問目は160÷40でした。こういうときのわり算は0と0をとって、16÷4にすればいいんだよなぁ。 だから、答えは4だと思いました。たぶん正解だと思います。

算数の問題を1問解くたびに同時進行で日記帳に自分が何の問題を解いて、どんな答えを出したのかを書いた。

当時の自分は何て効率のいいやり方をしているんだろうと有頂天になっていた。算数の宿題もグループ日記も書き終えて安心して眠った。

次の日に算数の問題をあれこれ苦悩しながら解いていく自分の様子を書いたグループ日記を先生に提出すると、先生の血相がみるみる変わっていきこんなことを言われた。

「ユーリオ君、これは日記ではありません!」

何で怒られたのかは、あの頃の自分は理解することができなかった。 放課後になって、帰り道を1人でとぼとぼと歩いていたのだけど、まっすぐ家に帰りたくなかった。

近くに公園があったので、そこで寄り道をしてぼんやりと水飲み場の水道の蛇口を眺めていた。

「君のせいで変なひらめきがおきちゃったんだからね」

ぽつりと呟いた。公園はこぢんまりとしていて誰もいない。おもむろに水道の蛇口に近づいて、飲用の蛇口を思いっきりひねってはすぐに閉めた。

水は勢いよく飛び出して空高く上がっていく。頭上で一瞬水が止まったと思ったら、雨のように自分めがけて落ちてきた。

何度もとり付かれたように蛇口をひねっては閉めていると、自分の衣服に水がしみ込んでいき地図が描かれた。

だからなのだろうか。 公園にある水道の蛇口が映っている写真を渡された時、あの頃の出来事が思い出す。