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深爪痛い。そしてレストランは潰れた

コラム コラム-エッセイ

やばい! 深爪で薬指が炎症をおこした。右手の薬指の肉に爪が食い込んでいる。まるで行き場をなくしていた者どもがとんでもない方向に走っていくようにだ。

自分の爪は絶対に深爪をしてはいけないらしい。よく子供でも大人でも爪をぽりぽりと歯でかじっている人がいる。前世はビーバーなのではないだろうかと思うぐらいなんだけどさ。

大抵その人たちの爪は柔らかそうでかじりがいのある深爪しても大丈夫な形をしている。

※個人の感想です。

爪をかじる人たちの目は焦点があっておらず、目線は上の空を向いている。あっ! もしや、もののけの類に取り憑かれているのではと心配になった自分はね。かじっている最中の知り合いに話しかけた。

「爪うまいか?」 

「あぁ。うまい」 

「マジで?」 

それは小学生の頃、学年が変わり、新しい机の引き出しの裏側に誰のものだか分からない乾燥された鼻くそがついていたぐらいの衝撃的な会話だった。

テレビの特集で爪をうまそうにかじる人たちの特集をしていたら、自分は永久保存版でビデオテープに録画するぐらい、爪をかじる人たちが不思議に見えるのだ。 

何故なら自分の爪は魔女のような長い爪が似合うのではないかと思われるぐらい深爪が似合わない。いや、深爪をしてはいけないのだ。

うっかり爪をかじったらさいご、両手の爪たちは、深爪天国になってしまう。そして炎症に悩まされ、もがき苦しみ、トイレで便をして、きれいにトイレットペーパーで茶色い物体をお尻の穴からふき取る時に、大腸菌が炎症した爪の肉の中に入っていくだろう。

それはとてつもなくセンセーショナルな出来事であり危険な革命だ。しかし炎症した傷口に大腸菌が入ってしまったら、どうなってしまうのだろう、とても気になる。

あっ! きれ痔になれば本人が望まずとも大腸菌が傷口に勝手に入ってくる。突然、見たこともない気味の悪い女性がさ。

「私は押しかけ女房です」 

と勝手に自宅に侵入し、風呂を無断で入り、冷蔵庫の中身の食べ物をムシャムシャと食べていたら誰だって怖いだろう。 

あっ! 一番怖いのはレストランでの食器洗いだ。自分は高校1年生の時、時給800円程度の食器洗いをしたんだけどさ。

同じバイトの人たちは忙しいのか分からないが、まるでゴミ箱にゴミを捨てるように洗い場にじゃんじゃんお客が食い散らかした皿を放り投げていたんだよ。

自分は高校生で世間知らずで、まだ用心深くなかった。敵か味方かも判断できないうさぎが狼に食べられてしまうような男だった。じゃんじゃん皿を投げ込まれた洗い場の中へ食器を洗うために手を中に入れた。 

「痛たぁ~」 

自分の指は、割れたガラスの破片に切られてしまったんだ。血がドクドクと指から流れた。自分はとっさの判断で、すぐに指をきれいに洗い、近くにバンドエイドとガムテープがあったのだが、迷いもせずガムテープを貼りつけた。 

バンドエイドでは病原菌が傷口から侵入してくる恐れがある。唇や歯茎から血が出ているお客がもしも大変な病気だったら怖いじゃん。

完全防水のガムテープを貼っていなければ、自分は時給800円そこらで命を危険にさらさないといけない。そんな危険なルーレートはまっぴらごめんだ。 

「ねぇ。何でガムテープ指に貼っているの? バンドエイドにしなよ?」 

「いや、ガムテープの方が落ちつくんです」 

「おかしな子ね」 

なんて、バイト先の女子の先輩は不思議な顔で言った。この際、おかしい奴だと思われてもいい。自分が命を守るためにガムテープを貼っている理由を話したところで、その女子は神経質な野郎だと気味悪がるに決まっている。

あぁ、そうだとも、そうだとも、自分は神経質な野郎だ。家に帰ったら、うがいをしないと気がすまない。寝る前にきちんと歯を磨かないと眠れない。どうだ参ったかと口には出さずに心で思った。

自分が指をケガして一ヶ月後、バイトしていたレストランは潰れた(ユーリオの呪いじゃないからね)。高1の秋の出来事だった。そんな想い出話に浸っている場合ではないのだ。

自分の右手の薬指は深爪でかなりの打撃を受けている。思わず悔しさのあまり右手の拳を握りしめる。

「痛てぇ~」 

右手の薬指が深爪だったの忘れていた。我ながら痛みが走るのは嫌なものだ。出産中の妊婦からすれば、

「お前の痛みなんて、ちっぽけなものさ」 

なんて言われそうだけど、自分の中では大問題なのだ。人は恋をすると何も手につけなくなってしまう。片思いならばため息ばかりついている。

自分は深爪のことで頭がいっぱいで何も手につけられない状態だ。こういう時は自分よりも人生を生きている母親に聞いてみよう。居間で気持ちよさそうに昼寝をしている母親をおこし話しかけた。

「深爪になったのだけど、どうすればいい?」 

「薬ぬればいいよ」 

「薬?」 

「深爪に効く薬だよ」 

母親は不機嫌な顔で、深爪に効く薬を自分に手渡した。ほんとにこの薬は効果があるのかと自分は試したこともない薬を半ば疑いながら深爪になっている部分にぬりつけた。 

数時間後、効果があらわれた。深爪の痛みが消えて驚くほど順調に治っていた。すっかりご機嫌になった自分は、夕食の支度をしている母親に聞いてみた。

「これ何の薬?」 

「さぁ、知らない。ただお母さんもぬって治ったから」 

「じゃあ、薬の名前分からないんだ?」 

「うん」 

会話は弾むこともなく、夕食の支度で忙しい母親は無言で包丁でキャベツを切り刻んでいる。自分はベッドに寝ころんで、 

「まぁ、深爪治ったんだからいいかぁ」 

と独り言をつぶやいた。

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