不器用な男のクリスマスラブストーリー【前編】

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クリスマスイブの夜に携帯の電話が鳴り出した。誰からの着信だろうと携帯電話の画面を見ると知り合いの男性からだった。 

「もしもし」 

「もしもし石川さんですか?」

 「はい」

 「Kです。僕、石川さんに言われた通り、はっきり気持ちを伝えました」 

男性は当時、田舎から上京して芸人を目指し、お笑いライブに出演しながらアルバイトをしていた。

アルバイト先で女性に恋をして悩んでいたのだ。よく職場で男女が出会い恋愛に発展していく。

当たり前の自然な流れなのだけれど、男性がみんなと違うところは、まだ女性と付き合った経験もなく、あるのは布団の横に束で置かれたアイドルの写真集、壁にはアイドルのポスターがどの角度からでも見られるように張られていたこと。

男性はアイドルに異常な興味をしめしていた。終電がなくなり、男性の好意により家に泊めてもらったことがあったのだけれど、

「今日は石川さんを寝かせませんからねー」

と男性は無邪気に話し出し、当時売り出し中のアイドルグループのCDを何回もリピートさせ、自分に聞かせはじめた。 

男性でも女性でもアイドルに憧れる気持ちは分からなくもないのだけれど、ずっとアイドルの歌が流れていると眠らせないための罰ゲームをやられているじゃないかと複雑な気持ちになった。

他人の部屋に行くと気づかなかったものが見える瞬間がある。男性は紛れもなくアイドルマニアだったのでしょう。

テレビや雑誌で見るアイドルとは違い、現実は虚像と偶像に差があるものだ。 あの頃の男性は、それを知らずに生きていたのかもしれない。

そしてクリスマスイブの夜、自分に電話をかけてきた。きっと誰かに自分の叫びを聞いてもらいたかったのかもしれない。

男性は芸人活動をしながらアルバイトをし、そこで女性と知り合った。その娘は学生でお互いに仕事中にアイコンタクトをとり合うようになり、アルバイト終了後、2人で公園のベンチに座り、いろいろと話したそうだ。

その時に女性は男性に将来自分が何をしたいと思っているかを心開いて話したそうだ。男性はそれを黙って聞いていて自分が芸人の活動をしていることも言うこともなく、自分が何者なのか語ることもなく、ただ聞いているだけだった。 

後日、男性からその話を聞かされた時に

「何で自分が芸人になるためにバイトしていると言わなかったんですか」

と男性に伝えた。男性は自分がやろうとしていることを隠し、アルバイトの面接のときも専門学校に通っていると嘘をついて働いている人だった。

誰にも話さず、無言実行もいいかもしれないけれど、黙っているだけじゃ理解者が現れるのは難しくなる。

それでいて男性は公園でのベンチでの出来事がきっかけで女性のことが気になりはじめていたのだった。

それからの男性は、女性と同じ職場だったのもあり(シフトを知っていた)、女性のバイトが終わるまで自転車で待っていたそうだ。

女性は男性が待ち伏せしていることも知らず、店から出てくると暗闇の中、男性が待っていた。 

女性はびっくりして走って逃げ出した。男性は自転車で女性を追い掛けていく。その一件があってから女性は男性を避けるようになり男性は悩みはじめたのだ。

公園のベンチまではよかったかもしれない。 けれどもベンチに座って女性が心を開いて話しても、男性は全く自分のことを話さなかったこと。

それにバイトが終わってから店を出たら、男性が何も言わずに自転車で待ち伏せしていて逃げたら追ってくること。

さぞかしびっくりしたことでしょう。男性は恋愛の仕方が分からず、不器用な自分でしか表現することができなかった。

職場で男性は女性から避けられ、あれほどアイコンタクトで通じ合う2人がぎこちなくなっていく。

男性は避けるつもりもなく、彼なりに自分の気持ちを伝えようと自転車で待っていた。

ただ自分をアピールする順序があまりにも突然すぎたのかもしれない。自分のことを何ひとつ話さない男性が暗闇の中、自転車で待っていたこと。

それは女性にとって不信感を募らせるきっかけのひとつになったのかもしれない。男性でも女性でも、いったん歯車が狂い出すと泥沼にはまっていく。

自分も懐の狭さ、一時の感情のまま動き、泥沼に落ちて後悔したことがあった。

だからこそ男性の悩みが自分のことのように思えて当たり障りのない彼の傷つかない言葉を選んで話すことが、結果的に彼をダメにするような気がした。だからこそ男性に話した。

「何で相手が逃げているのに自転車で追いかけたんですか?」

「それは……」

「夜なんだし相手は怖がりますよ、それに公園で2人話した時、相手が心を開いて自分のことを話している時は、自分もきちんと話さなくちゃ」

「はい、だけど話すのが恥ずかしくて……」

「相手だってK君に心開いて話したんだ。それは勇気を出してのことかもしれませんよ。それをK君はただ聞いているだけで、自分のことは話さなかった。相手は心開いて話したのに、何も話さないK君を見てがっかりしたかもしれませんよ」

「はい……」

男性の声はだんだんと小さくなり、元気がなくなっていくのが分かった。自分のよけいなお節介のアドバイスは、当時の彼にとってうんざりする話だったかもしれない。

「このまま終わらす気ですか?」

「えっ!」

「このまま避けられた、はい諦めるでいいのですか?」

「……」

男性は黙って考えているようでだった。自分もこれ以上話しても彼をもっと傷つけてしまうのではないかと感じたので、男性の恋愛に関しては口を出さずにいた。

男性でも女性でも相手を好きになって告白せずに諦めてしまう人がいる。人の恋愛だし、自分もとやかく言う筋合いはないのだけれど、諦めて

「あの時、自分の気持ちを何で伝えなかったんだ」

と何年も後悔するよりか、例え相手は振り向いてくれなくても自分の気持ちを伝えるのも時には必要じゃないだろうか。

ずっとその人を想いつづけて、何十年も悩みつづけ、他の恋愛に行くこともできず悩んだ結果、テレビの媒体を使って想いを伝えようとしている人たちの番組を観たことがある。

結末はすでに相手が結婚していて、違う生活をしている時が多かった。つまり恋愛に関して中途半端に自己完結してしまうと何十年も悩んでしまうこともありえる。

自分は彼が恋愛をしたことがないということ、そしてこの恋が"初恋"だということを知っていた。

だからなのかな、初めての恋ぐらい不発で終わるのはよくないと思ったんだ。自分は最終的にある選択を男性にさせてしまうことになるのだけれど、今でもそれが正しかったのか分からない。

もしかしたらとんでもない選択をさせてしまったのかもしれない。 

前編・完

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今日のうさぎ 3 / Today's rabbit 3